思ってたのと違ったわと言う悩みと、飲食店の道のり。
”思ってたのと違ったわ”
人間とは失敗を重ねて学習していく生き物である。
やってみなきゃわからないだろ!
と僕は人生の内に何度も言って来たのだが、同時にいつも”思ってたのと違ったわ”が付いてきた。
そう、何度失敗しても 何度学んでも、必ず”思ってたのと違ったわ”という問題が付きまとってくるのだ。
好奇心旺盛な方々は十分に注意して頂きたい。
さて、
突然ですが、僕は飲食関係の仕事をしております。
因みに今はフリーター。以前は会社員として働いていました。
何も考えずに飛び込んで行った飲食の世界。
この世界ほど”思ってたのと違ったわ”と心から思う事は無いだろう。
僕は今までありとあらゆる”思ってたのと違ったわ”を経験してきた。
鈴虫を初めて見た時。名前と鳴き声からとても爽やかそうな綺麗な虫を想像していたが、どう見ても、ただのコオロギだった。
馬刺しを初めて食べた時。どう見てもただのマグロだった。
噂が絶えない”剛田”という苗字の少年に初めて会った時。パワフルな苗字を見事に裏切り、ひょろひょろのメガネ君が登場した。どう見ても”ホネカワ”の方が合っていた。
そんな出来事を遥かに上回る飲食の世界。
飲食の世界は厳しい。
休みが無い。給料が低い。 拘束時間がえげつない。
そんな事は分かっていたのだが、やはりやってみると想像を遥かに上回る。
料理が好き!料理が出来ればかっこいい!やっぱ今の時代手に職が無いとやっていけないっしょ!
こんな感じで飛び込んで行った者は恐らく半数近く3ヶ月もしないうちに辞めていくだろう。
僕もこの部類の人間だった。
僕がこの世界に飛び込もうと思った時期は高校2年生の時だ。
当時の僕は、偏差値42くらいの学校に通う赤点の亡者であった。成績表に赤表が3つか4つ付き2年生にして卒業どころか3年生に上がる切符すら貰えるか危うい状況であった。
この頃からだろうか「こりゃあ大学行けねぇな」と思ったのは。
大学を諦めた僕は、ここでようやく将来について考え始めた。
就職するか?専門学校に行くか?どうしようと。
専門学校に行くならどんな種類の学校に行こうかなぁ~なんて考え始めた。
ん~働くとしたら、俺パソコンとか苦手だしIT系は無理だな。プログラミングとかできねぇし。
やるとしたら、体動かす系かな?でも、大工とか力仕事系はちょっと向いてないな。
出来れば、技術を使ったパソコン使わない系がいい。
大事な事なのでもう一度言う。この男は今、高校卒業どころか3年生に上がれるかも分からない。人生においてとても大事な局面に立つ人間である。
よくもまぁ、こんな幸せな悩みを抱えたものだ。
いや、まず勉強頑張れよと。とりあえず高校は卒業しない?と今なら怒鳴りつけたいところである。
次の家庭科の授業で赤表が付いたらお前は留年だからな!と言われていた。
中に火が通ってない大根とごぼうが入ったどう見ても留年確定のみそ汁を、ドヤ顔で提出した結果、なぜか分からないが無事に進級することが出来た。
そんな僕だがここで調理の専門学校へ通う事を選択する。
美容師と迷った結果調理師を選んだ。
理由は単純。料理が出来ればかっこいい!と思ったからである。
みそ汁もろくに作れない人間がまぁよくもこの道を選んだな。と逆に関心すら覚えてしまう。
さて、晴れて専門学校に通う事になった僕だが早速”思ってたのと違ったわ”という難題にぶつかる。
ここで言う”思ってたのと違ったわ”は逆の意味で思っていたより楽という意味だ。
料理の世界が厳しいというのはあらかじめ何となく分かっていた。
きっとバチバチにしごかれて、心も体も毎日ズタボロにされてしまうのだろうと思っていた。
しかし、専門学校の課題や提出物なんかは、普通の料理に比べて審査が甘い。
それはそうだ。お金を払って学ぶのとお金を貰って学ぶのとでは訳が違う。
己の信念をかけた皿と皿をぶつけ合い、負けたら「はい退学ね」なんてルールも存在しない。
ごく普通の料理教室みたいな感覚だった。
そんな感覚が抜けないまま、いよいよ飲食店へと就職し始める。
さて、ここからである。
まずは挨拶代わりに「新入社員説明会」の道へたどり着くのにゾロもびっくりする程の方向音痴感をさらけ出し、見事に遅刻。
上司から盛大に怒られるところから始まる。
「うぉ。こえぇ。やっぱ社会人になると違うな。」と改めて気を引き締める事となる。
この点に関しては飲食店とかそういう問題では無いので、方向音痴の方々は十分に注意して頂きたい。到着予定時刻の二時間半前くらいには、家を出ることをおすすめする。
あとグーグルマップもしっかりダウンロードしておくこと。決して己の直感など信じない事だ。「近いな」なんて言いながら歩いていると、元にいた駅へと、たどり着くことになるだろう。「おや?見慣れた景色だな」なんて言い始めるだろう。
そんな僕であったが、毎日怒られながらも仕事はしっかりとやっていた。
「素早く丁寧に」いかに効率よく且つ丁寧な仕事を心掛け、時間を有効活用し、仕事量を減らしながら回すことが出来るか?
どの職でも言えることだが、調理職ほどこの能力が試される事は無いだろう。
実際とても大変である。
料理提供が遅いと怒られた。仕事が雑だ!と怒られた。
時には、”ハム”と”ハブ”を聞き間違えて怒られたこともあった。
”ハブ”取ってと言われた僕はしばらくポカンとなっていた。
理不尽な怒られ方も何度もした。
「これ、無理くない?」と何度もなった。
もはや、食らいつくだけで精一杯である。
当初、頭の中に描いていた料理人の姿が消えていた。
かっこいい。モテる。おいしい料理を食べたら女の子が裸になる。なんて考えてる余裕などない。
「おあがりよ!」「お粗末!!」なんて言葉は使わない。実際使ってる言葉と言えば「早くシフト出して」であり、「わりぃ、この日入れない?」である。
思ってた以上に思ってたのと違かった。
しかし、こんだけ思ってたのと違っても、飲食店の仕事は続けている。
今はフリーターだが、結局料理が好きと言う点は変わらないのだろう。
新しい事を始める時は必ず、思ってた以上のギャップが襲い掛かってくる。
自由になりたいからフリーランスになる。どこにでも居そうな普通の生活をしている人にはなりたくない。人生1回きりっすよ。
こんな学生達を最近見かける。
是非チャレンジして頂きたい。
この先訪れる”思ってたのと違ったわ”にぶつかり、悩みに悩んで欲しい。
それを乗り越えて、自分の思い描いた理想と違っても続けていって欲しい。
うむ。
最後に1つだけ言わせてほしい。
なんだかんだで、大学は出ておくべきだぞ。
しっかり勉強頑張って下さい。