あだ名の由来とは、時に残酷な形でおとずれるものである。
小学校の頃、”イカくん”というあだ名の少年がいた。
因みに彼の名前は、まさる君である。
あだ名とは恐ろしいもので、時に名前とは何一つ全く関係ない名前を付けられることがある。
まさる君が、イカくんというあだ名になったのも、しっかりとした理由がある。
小学校1年生の時である、彼は小1にして並外れた頭脳を持っていた。
とにかく頭がキレる。
得意科目は算数で、すでに1系という言葉を知っていた。
僕ら庶民は、数争いをしている時は決まって最後に無限大数と言えば勝ちみたいな安易な考えがあった。
「俺100~」
はぁ~?「じゃあ俺10000~」
「じゃあ俺100万~」
はい、じゃあ「俺無限大数~」
これで、チェックメイト。
「無限大数」の勝ち。である。
しかし、こんな僕達に、まさる君は冷静にツッコみを入れる。
「いやいや、無限大数は数字じゃないから」と。
「それを言うなら、無量大数な。」と、、
僕達は何が何だか良く分からないが、それっぽいまさる君の発言に、いつも感心していた。無量大数が一番強くなった。
そして、まさる君は、ボンバーマンというゲームがめちゃくちゃ強い。
ボンバーマンとは、簡単に説明すると、道に爆弾を置いて相手を殺すゲームだ。
何処に爆弾を置けば、相手を殺せるか?そして何処に隠れれば爆弾が当たらないか?何秒で爆弾が爆発するか?等を常に計算していく頭脳戦である。
スーパーファミコンのゲームであるが、僕達はことごとく、まさる君にボコボコにされた。
因みに、たまに勝ったりすると、まさる君は「もう一回」とだけ言い、僕達をボコボコにするまで永遠にコントローラーを手離さない。
そんな、ゲームも勉強も小1にして、ぶっ壊れ性能を持っていた、まさる君であるが、彼にも弱点というものがあった。
それが、イカである。
まさる君はイカが嫌いだった。給食にイカが出て来るのがどうやら、嫌だったらしい。
しかし、流石はまさる君。
僕達にそんな、弱点をさらすような真似はしない。
頭のきれる彼はこのごまかし方も並外れたスキルを見せつける。
給食にイカが出て来ると、まさる君は、食べるふりをして床に落とす。
あーぁと。イカが別に嫌いでは無い、むしろ好きな僕達は「もったいねぇ」とだけ言い、普通に給食を食べ進める。
先生も、次は気をつけなさいね。と言い、普通に給食をほうばる。
まさる君は「はーい」と返事をし、イカをゴミ箱に捨てる。
何の違和感も無く、無駄のない動き。
まさる君の圧倒的頭脳プレーに、僕達は何も気づけなかった。
しかし、しばらくして、またイカが給食に出て来る。
そんな頻繁に、イカが出て来るわけでは無いのだが、イカ料理というものは形を変えて様々な状態で出て来る。「イカのリング揚げ」「真イカのサラダ」「イカと里芋の煮物」等、ひと月に1~2回くらいイカは登場する。
その度、まさる君はイカを落とす。
「また落としたのかよーまさる君~」と。
次の月も、その次の月も。
ひたすら、まさる君はイカを落とし続けた。
皆の脳裏によぎる。「イカ落とし過ぎじゃね?」
あまりにも、ピンポイントで落とし続けられるイカ。
しかし、まさる君は、「またか」と言わんばかりに、落としたイカを手慣れた作業でゴミ箱へと運んでいく。
違和感があり過ぎる。
あまりにも、イカ過ぎる。
給食の食材をよく落としてしまうという行為は、特に珍しいと言った事では無い。
プチトマトが上手くつかめなかった、箸が当たって牛乳を落としてしまった等、誰でも起こりうるミスである。
実際僕も、楽しみにしていたココア揚げパンを箸で掴もうとした結果、落としてしまい、ガン泣きした。
が、まさる君は何かが違う。
先生を含めた、クラス全員が疑問に溢れかえっていた。
そんなある日、まさる君は学校を休んだ。
真面目で優秀な、まさる君が学校を休む。さぞ、大きな問題だったんだろうと僕達は思った。
風邪ひいたのかな?、身内に不幸でもあったのかな?
色々と疑問が飛び交う中、給食の時間が訪れる。
献立に「イカフライ」が登場した。
……
まさかな?
嫌な予感が皆の頭の中によぎる。
そこまでするか?
イカが嫌なだけで学校休むか?等と言いつつ、若干の期待を寄せる者も現れる。
当時、僕らは小学1年生。学校をさぼると言った概念が無い。
休む時には必ず何かしらの理由があるわけだ。
いやいや、風邪でしょ!!とか言いつつ心の中では皆、イカを期待していたのは明らかだった。
次の日、まさる君は何食わぬ顔で登校してきた。
早速まさる君は、質問攻めにあっていた。「何で学校休んだの~?」
といった小1らしい可愛いらしい質問に対し、まさる君は告げた。
「おれ、実は……イカが嫌いなんだ。だから休んだ。」
とても前日休んだとは思えないほど、堂々と宣言するまさる君。
「まじで?w」
あまりにもピンポイント過ぎるその答えに、思わず笑い転げてしまう僕を含めたクラスメイト達。
やはり、イカだったと。半信半疑で疑っていたが、それが確信に変わった時の衝撃と期待通りの答えがたまらなかった。
まさる君は、もう隠せないと思ったのだろう。
イカを永久に落とし続ける行為に限界を感じ、学校を休むと言った切り札まで切ってしまった。
まだ、うんこ等と言った言葉で爆笑するような好奇心旺盛の小学1年生達とは、一回りも、二回りも上を行く彼の頭脳が逆にあだとなってしまった瞬間だった。
そして、まさる君は”イカくん”になった。
まだ、イカが嫌いと最初から言って残すだけであれば、こんな展開にはならなかったのかもしれない。いや。てか、ならない。
なっていれば、僕のあだ名は今頃「しいたけ」だった。
頭のいい彼の行動だったからこそ、こんな結果になってしまったのだ。
まさる君は、それ以降イカを残すようになり、すっかりイカブームは無くなっていった。約1か月間くらいで、普通にまさる君に戻った。
この、”イカくん”に始まり、僕は様々なあだ名をつけられている者を見てきた。
ドッジボールが強いだけで「もと外」。存在感が薄いと言った理由で「忍者」
遊戯王のライフポイントを頭の中で常に計算しているという理由で「計算機くん」
どれも、特徴をとらえた上に、ぶっ飛んだあだ名である。
ならば、特徴をとらえれば、ポジティブなあだ名をつけられるのでは無いだろうか?
と思い、僕はヘアスタイルをチェンジした。
菅田将暉のヘアカタログを見せて、こんな感じにしてくれと美容師に頼み込みカットしてもらう。
必死に美容師にセットのアドバイスを貰う。
ドライヤーである程度決めちゃって~、最初は柔らかめのワックス使って~、クセが強いんで最後スプレー使って固めちゃったりしてもいいかもです。
なんて言った的確な助言を貰う。
これで、菅田将暉の完成である。
次の日、、、、
僕のあだ名は、サザエさんになった。