天使のような少年との出会いと、母親の偉大さが素晴らしかった
2~3歳児くらいだろうか?
電車の席に座っていると、ちょこんとお母さんと一緒に、僕の隣に座ってきた。
ニコニコとこちらを見つめる男の子。
にこっと笑い「こんにちは~」と手を振ると、
にこっとしながら手をぱちぱちと叩く。
男の子のお母さんが、「もう~すいません~ほら、しょうちゃん、お兄ちゃんに、こんにちわ~!」と言って男の子の手をとってフリフリと手を振る。
男の子は天使のような笑顔で「こにゅちわー」みたいな感じで、まだ言葉がままならないながらも、僕に挨拶してくれた。
やばい。
かわいすぎる。
なんだ、この可愛すぎる生物は。
とても同じ人間とは思えない。
やっぱり子供は可愛いなぁ~と、とても和やかな気持ちになり、眩しすぎるその笑顔を貰った僕は、今日とても良い1日のスタートを切ったのであった。
さて、
問題はここからである。
いい気分になった僕はこれから、目的地までいい夢でも見ながら寝ようと思ってた。
……
……
めちゃめちゃ感じる熱視線。
キラキラと眩しい視線を感じる。
ちらっとその方向を向くとずっと男の子が見つめている。
再び僕は、ニコッと笑顔を見せた。
キャッキャ!と手をパチパチ叩く男の子
うむ、可愛い!!!
そして喜んでる子供を見ていると、とてもいい気分になる。
同時に僕は、寝れなくなった。
そんな、いいチップ貰ってしまっては、ほったらかしにして寝ることなど出来なかろう!
そう決めた僕は、今日はこの男の子が喜ぶ為であれば、いくらだって相手してあげよう!と思ったのだ。
変顔したり、笑ったり、手を振ったりして、男の子と一緒に遊んでいた。
お母さんも「もう~すいませんね~ほんとに。ほら~良かったね~しょうちゃん~」なんて言ったりしていて、僕もその親子の姿にほっこりしていた。
日本は今日も平和です。
しかし、しばらくすると問題が発生する。
ZZZZZ
!!!!!??
なっ!?
お母さん、寝ちゃった。笑
雲行が怪しくなってきた日本です。
そして、同時に僕も追い込まれる。
何せ赤の他人の子供だ。しかも喋れない。そろそろ僕の変顔ボキャブラリーも底をつきそうになっていた。
これが、知っている友達の子供や、親戚の子供とかなら何とかなる。
が、この状況で知らない人の子供、ましては喋れない子供とどうコミュニケーションをとればいいのか、境界線が分からない。唯一の通訳者であるお母さんが寝てしまった。
これは、非常にまずい。
これ以上いったら、泣かせてしまわないだろうか?等と言った考えが頭によぎる。
てか、お母さん安心し過ぎやろ。(笑)
爆睡である。
ちょっと疲れたわ。あとは任せたわよ。みたいな感じで寝られてしまっても困る。
この人だったら、大丈夫みたいな信頼みたいのが感じ取れたのは、嬉しいのだが、残されたこちらの責任感みたいなのも考えて頂きたい。圧倒的プレッシャーである。
男の子は、不思議そうな顔でずっとこちらを見つめている。
まるで初めて見つけた、生物や新しいおもちゃを見つけたかのように興味深々な目をしている。
あぁ、
しょう君よ、確かに君の前に写っている男性は、そこらへんに転がっている昆虫や、トイストーリーのように喋る変なおもちゃのような生物に見えているのかもしれない。
だがな、僕も生まれたての頃は君と同じように人間のような姿をしていたんだよ。
と、満面の笑みで返す。
しばらく真顔だったしょう君だったが、またにこっと笑って手をパチパチし始めた。
良かった。
どうやら、僕が人間だという事は認めてくれたらしい
さぁて、どうすっかなーと困っていると、
「イィアッエエ!!!ウへへ!!」
みたいな事を言い出して笑いながら手を叩くしょう君。
……………
……………
……………
ほんやくこんにゃくが欲しい。
かつてこれ程までに、ほんやくこんにゃくが欲しいと思った事は無い。
今までドラえもんの道具の中で何が一番欲しいか?という質問は、耳にタコができる程皆さんも聞いてこられたと思う。
その中で皆さんは何と答えて来られただろうか?どこでもドアだろうか?もしもボックスであろうか?数ある無数の道具の中で、ほんやくこんにゃくと答える人間が何%いるだろうか?恐らく数%にも満たないだろう。
そんな、ほんやくこんにゃくが、僕は今死ぬほど欲しい。
喉から、手が出てもいいから欲しい。
古来から伝わる、皆が頭を抱え悩み続けてきたこの難題、結局いまだに正解までたどり着けないレジェンド級の質問。「ドラえもんの道具の中だったら何が1番欲しい?」
この最終回答は、今なら間違いなく即答で、ほんやくこんにゃくといえる。
せっかく、しょう君が作り上げてくれたこのチャンスを「ん?なんて?」で返すのはあまりにも切なすぎるではないか。
だが、今はそんな妄想に浸かっている場合ではない。ほんやくこんにゃくはない。
しょう君は何と言ったのだろうか?
「今日はいい天気ですね?」だろうか、それとも「顔にゴミ付いてますよ?あっごめんごめん!元々ゴミだったか!」等と言った距離を近づける為に放った、ちょっとしたギャグだろうか?
分からない。
とにかく笑顔を崩さず、しょう君に顔を向ける。
「ウへへへっ!!」と楽しそうに笑顔で返してくれるしょう君。
うん!そうだね!
必死にあぶり出した答えがこれだった。
我ながら、とても酷い回答である。
なにが、うん!そうだね!だ。そんなことぬかす奴は、機関車トーマスのナレーションぐらいしか見たことが無い。
しかし、そんな森本レオみたいな僕の発言も、しょう君は笑顔で受け止めてくれる。
もうエンジェルである。なんて素晴らしい子なんだ。
僕が関心していると、
ここで、しょう君は興奮したのか大胆な行動に移る。
なんと、その場で座席の上に立とうとしているのだ。
!!!!!!
なっ!?やばい!!しょう君、それはあまりにも危険すぎるのではないか!?
ひっくり返って落っこちたりしたらどうする!?
僕は慌てふためく。必死に何とか座らせようとする。
あまりの突然の出来事に「るるるるるるるるっ!!」と動物園の飼育係みたいな声を急に出し始める僕。
ざわつき始める車内。
今日の日本はハリケーンです。
しかし、それを即座に感じ取ったのか、母親ここで起床。
「しょうちゃん!!だめ!座りなさい!」と一言。
一瞬でそこに鎮座するしょう君。
すげぇ。これがお母さんの力か。
あまりの迫力に目が奪われた。
お母さんが寝ていた時間は1駅~2駅くらいの間。約3分間くらいである。
その3分間で、僕は色々なアクシデントに見舞られた。フナ虫になったり、ウッディやバズライトイヤーになったり、森本レオになったり、動物園の飼育係になったりした。
たかだが、3分で何個も心臓が吹っ飛びそうになった。
それを1撃で、1言で黙らせるのだ。
さすがは、母親である。
母親の力というものは本当に偉大だ。
その後、お母さんは再び眠りにつくことは無く、一瞬嵐が来た日本であったが、また平和な日本へと戻っていった。
そして、お別れの時。
先に電車から降りる親子たち。
「すいません。ほんとに。ありがとうございました」
ペコっと母親から、お礼を言われる。
「いえいえ、とんでもない。ばいばーい!」
と、しょう君に手を振る。
また、お母さんに手を握られ、手をフリフリさせながら、しょう君は満面の笑みで「ばぁい、ばーぁい」と可愛らしい声で返してくれた。
自然と溢れる笑顔。
あまりの可愛らしさに一瞬気を失いそうになる。
子供の力というものは、ほんとに不思議である。
黒く澄み切っていた僕の心を浄化してくれるような、そんな力を持った素晴らしい親子との出会いだった。
では。