記憶喪失。それは飲み過ぎによるものなのか?
ふっ、なるほど。
しばらくたった後。
どうやら、また世界線を間違えて来ちまったようだな。
っと僕は小さくつぶやいた。
時はさかのぼる事、数時間前。
AM5時。
居酒屋を出た後、ふらふらな足取りで、水道橋駅へと向かう不気味な男性が1人。
顔はドラえもんのように真っ青で、度々地面に膝から崩れ落ち、「うぐぅっっ」
という謎のうめき声を上げながら、駅を目掛けてゆらゆらと進んでいく。
周りの人々も薄々勘づいていただろう。
そのあまりにも奇妙なその姿は、間違いなく噛んでくるタイプの奴だ。
今にも銃口を向けられそうなその男性を仮に俺としよう。
いや、俺だ。
終電を逃した僕は始発電車、AM5時くらいの千葉方面へのJR総武線の電車に乗った。
そして、ここから記憶が無くなる。
しばらくして、目を覚ますとトイレの中にいた。
せかせかと、時計を確認すると、時刻はAM8時30分。
ん?分からん。何が起きた?なぜ今トイレの中にいる?
落ち着いて状況を整理する。
まず、最後の記憶を辿る、始発電車5時の千葉行きの電車に乗った。これは間違いない。絶対だ。神に誓う。嘘であれば何だって飲み込む。地球上に存在するものであれば何だって飲み込む。針でも、岩でも、バッタでも、何であろうと飲み込んでやる。これは紛れもない事実だ。
では、この3時間半の間に何が起きたというのだ?
思えば、吐き気がする。
ポケットの中を確認すると、謎の居酒屋のクーポン券がおびただしい量で、これでもかという程くしゃくしゃな状態で出てきた。もう、洗濯機に入れられた後みたいな、ぐにゃぐにゃか、パラパラか良く分からないあの感じで出てきた。
そして何と言ってもこの、凄まじい頭痛だ。
まるで、金属バットにこん棒を混ぜて、ビームサーベルにギガマンティスのカマを掛け、包丁のような刃物をつけ足した凶器を、そっと床に置き、サボテンでぶん殴られたような物凄い頭痛を感じた。
頭痛、吐き気、クーポン券、トイレ、密室。
事件の予感しかしない…
何らかの事件に巻き込まれた気がする。
脳裏に不安がよぎる。己の直感いや、本能がここをすぐに出ては行けないと、ブレーキを掛ける。
しかし、手掛かりが、余りにもなさすぎる。
頭痛、吐き気、クーポン券、トイレ、密室。
この少ないヒントでどう解決しろというのだ?
なぁ?工藤新一?
とか、考えつつケツを出しながら便器に座り、頭を抱えながら、「うぅぅっ」とうめき声を上げて早30分が経過していた。
らちが明かない、1つづつ順番に解決していこう。
まず、頭痛だ。これは間違いなくサボテンだ。
なぜなら、サボテンでぶん殴られたくらい頭が痛いからだ。
凶器、サボテン。
サボテンで殴る→トイレに引きづりこむ。
良く分からないが、ちょっと近づいた。
では、残りの吐き気とクーポン券はどうだろう?
クーポン券は居酒屋の物だ、つまり、そのクーポン券を常に所持しているという事だ。
なるほど、だいぶ分かって来たぞ。
という事は店員による犯行という可能性が高い。
なぜなら、居酒屋の店員はクーポン券を常に山のように持っているからだ。
犯人→居酒屋の店員
凶器→サボテン
居酒屋の店員がサボテンを見つける→それでぶん殴る→僕のポケットの中にクーポン券を入れる→トイレに引きづりこむ。
もう何がしたいのか全く良く分からないのだが、だいぶ確信へと迫ってきた。
後は、この吐き気だ。
これには、引っかかる点がある、僕が吐き気を催す場合は、必ず食べ過ぎか、呑み過ぎだ。
つまり、この現場は居酒屋である可能性が高い。
なぜなら、居酒屋は食べ物も飲み物も沢山あるからだ。
流石のコナン君もこの推理力には頭が上がらないだろう。
圧倒的IQの差を見せつけ、犯行の確信へと迫った。
現場→居酒屋。
犯人→居酒屋の店員。
凶器→サボテン。
そして、僕が電車に乗っていた、という事を考える。
これらをまとめるとこうだ。
居酒屋の店員が電車でサボテンを見つける。→ぶん殴る。→気絶する。→居酒屋に入れて大量に飲み食いさせる。→気分が悪くなる。→サボテンでぶん殴る→気絶する。→ポケットにクーポン券を入れる。→トイレに引きづりこむ。→サボテンでぶん殴る。
もはや、ただの殺人事件だった。
つまり、今いる、このトイレの中は居酒屋である可能性が高い。犯人のアジトという事か。
ほう、よくもまぁ3時間半という時間で僕を電車から引きずり降ろし、ここまでの犯行を行えたものだ。逆に関心すら覚えちゃうね?
とか考えつつ、便座に落ち着いてからすでに1時間経過していた。
そろそろ、脱出しなくては、とそっとトイレの扉を開け、出口に向かった。
しかし、その先には驚くべき光景が広がっていた。
現在AM9:30
記憶を無くしてから約4時間が経った頃。
僕は、吉祥寺駅のマックにいた。
目の前には、赤い髪の毛をしたドナルドがハッピーセットを抱えながら、「朝マックでもする?」と言った目で僕をガン見してくる。
なぜ、マックにいるのだ?てかなんで吉祥寺なんだ?
JR千葉行の電車に乗ったことから考えて、
何をどう計算してもこの答えにはたどり着かなかった。
まるで、時空を超えたパラレルワールドにでも来てしまったかのようなこの感覚。
何も初めての感覚ではない。
度々このような事が起きるのだ。
ふっ、なるほど。
しばらくたった後。
どうやら、また世界線を間違えて来ちまったようだな。
っと僕は小さくつぶやいた。
知らない間に記憶を失い見知らぬ世界に引きずりこまれないよう、
皆さんもアルコールの取り過ぎには十分に注意して頂してください。
では。